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福岡高等裁判所 昭和50年(う)311号 判決 1975年10月02日

被告人 坂崎始

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役七月に処する。

但し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人衛藤善人提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

同控訴趣意(量刑不当)について。

所論は要するに、原判決の本刑はともかく、貨物自動車の没収は、被告人の職業、経済状態及び今後の生活等を考慮するとき余りにも苛酷であつて、原判決の科刑は重きに過ぎ破棄を免れないというのである。

よつて、所論にかんがみ本件記録及び原審取調べの証拠のほか当審における事実取調べの結果を加えて原判決の当否を検討するに、被告人はこれまでに多数回にわたり自動車の無免許運転により罰金刑の処罰を受けたにも拘らず、少しも反省することなく原判示の如く二二回にわたり本件普通貨物自動車の無免許運転を繰り返していたものであつて、原判決の被告人に対する科刑は必ずしも首肯できないものではない。

しかしながら他面、被告人はこれまで罰金刑の処罰を受けただけであつて、その規範意識の覚醒を促し再犯を防止するためには、懲役刑の執行を猶予し且つ保護観察による指導監督を加えることにより十分可能と考えられ、必ずしも本件貨物自動車を没収すべき保安処分上の必要性に乏しいことが認められ、更に右自動車は被告人の露天行商の営業上必要とするものであり、これを運転するため被告人の妻において運転免許を取得する意志を有していること、本件貨物自動車は現に約六〇万円相当の価値を有しており、これが没収は被告人の営業を甚だしく制約し豊かでない被告人の家計にとつてかなり大きな損失をもたらすものであることが認められる。これらの諸点を総合勘案すると、被告人に対し懲役七月、三年間保護観察付の執行猶予とする本刑に付加して本件貨物自動車を没収する原判決の量刑は重きに過ぎ相当でない。論旨は理由がある。

そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条に則り原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い更に判決する。

原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示各所為はいずれも道路交通法六四条、一一八条一項一号に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い原判示別表二二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役七月に処し、情状を考慮し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、なお同法二五条の二第一項前段に則り右猶予の期間中被告人を保護観察に付することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 平田勝雅 吉永忠 堀内信明)

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